第一子帝王切開 パート6
産後の入院生活も落ち着いてきた頃、助産師さんに言われた。
「先生、丁寧に縫ってくれてたんだよ。普通はホチキスで縫合するんだけど、メープルツリーさんの場合溶ける糸で縫合してくれたよ。」
出産前、急に決まった帝王切開に納得ができずに、泣いていた私に、先生はvbacについて教えてくれた。
VBAC(ブイバック)とは、帝王切開経験後の経膣分娩の事だ。
経膣分娩が成功した場合をvbac、経膣分娩に挑戦することをTOLAC(トーラック)という。
日本では、基本的に一度帝王切開を経験すると、次の出産でも帝王切開になる病院がほとんどだ。
TOLACにはリスクが伴うからである。
TOLACのリスクについては、またどこかで。
また、TOLACをするには一定の条件がある。
・前回の帝王切開の理由が骨盤位などで、骨盤の大きさや産道の問題ではないということ
・既往帝王切開が1回であるということ
・前回の帝王切開が通常の子宮下部横切開で、術後の経過が良好であること
・既往帝王切開の他に経腟分娩のリスクがないこと
・帝王切開以外の子宮切開創がないこと
・本人が強く希望し、家族もそのリスクを十分に理解していること
・緊急帝王切開および子宮破裂に対する緊急手術が可能であること
これらの条件に全て当てはまってはじめて、VBACを検討することができる。
先生は、私の想いを聞いて、けして勧めているわけではないけれど、そういう方法もあるよと教えてくれた。
だから、帝王切開の時、もしも次、私がTOLACを希望してもいいように、できる限りのことはしてくれたようだった。
先生が教えてくれた、vbacの事は、それからの私の希望となった。
もうすぐ退院となる頃、先生の診察があった。
帝王切開の理由となったヘルペスの疑いの細胞診の結果が出たのだ。
結果は陰性。
私の帝王切開は、無意味だった。
先生は、それじゃあ納得できないだろうからと血液検査も見てくれたらしい。
ヘルペスの抗体があるから、かかったことはあるはずで、陽性は出なかったけど、可能性はあったかもって言われた。
でも私にはその事は、よくわからなくて、ただただ、もう起きてしまったことは、変えられないし、元気に生まれてきてくれた娘の世話に何とかして気持ちを持っていくしかなかった。
やるせなさそうな先生に、
「でも先生、丁寧に縫ってくれたんでしょっ?」って言ったら、
「私にはそうすることくらいしかできなかったから。」
そう言ってくれた。
先生も、決断するの、辛かったよね。
悔しかった。
悲しかった。
まだ傷も癒えていなかった。
私は次の出産に、このやるせない想いを託すしか、なかった。
無事に生まれたんだから、産み方なんてどうだっていいじゃない。
そう思う人もいると思う。
でもね、産み方にこだわってしまう人だっているよ。
どうしても経膣分娩が経験したいって思うことって、そんなに悪いことなのかな?
だって、本能なのか、何なのか自分でもわからないけど、理由なんてないし、リスクが高い事もわかってるよ。
それでも何故かそんなふうに思ってしまう。
その気持ちは、簡単じゃない。
理屈じゃない。
3年後、私は執念で、vbacを成功させた。
その事も、また書こうと思う。
けして、私もvbacを勧めているわけではありません。
TOLACをしたいのであれば、きちんとリスクを受け止めた上で、自分で決めてください。
ただ私は、同じ想いを抱えているママの気持ちを受け止めてあげたい。
私の経験談が、少しでも誰かの役にたてたらと。